複視の鍼灸治療のポイン(印刷用ページ)









複視の鍼灸治療のポイント









第1・・・・・・【虚実補瀉】




第2・・・・・・【上頚部の圧痛の除去】






遠方にてご来院困難な場合、下記の複視の鍼灸治療のポイン(印刷用ページ)をプリントしお近くの鍼灸専門の治療院に相談してみてください。




ただし、それぞれの鍼灸師さんの治療方法に違いがありますため、この私の治療法を見て理解できないばあいがあります。




鍼灸院(鍼灸師)の選び方として、電話にて『脈診(みゃくしん)と舌診(ぜつしん)を行っているか?』を訊ねましょう。これを行っていない鍼灸院(鍼灸師)は除外します。





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このコピーをお受け取りになられた鍼灸師の方へ : このコピーは、遠方のため当院へ通院できない複視の患者様への一助として、また、よりよい鍼灸治療を志す鍼灸師の方の参考になることを期待して「セイ鍼灸院ホームページ」上に私の経験からの[複視の鍼灸治療のポイント]を要約し公開したものです。このコピーを持参された患者様の治療をよろしくお願いいたします。


                      セイ鍼灸院 ☆ 妹尾博彦  











複視の鍼灸治療のポイント第1【虚実補瀉】・第2【上頚部の圧痛の除去】







■虚実補瀉

虚実の補瀉は鍼灸治療の枢要です。これによって身体全体の気血の運行が改善され、抹消血流の改善により種々の病気症状が自然治癒に向かいます。脈診ならびに舌診から判断し虚実への対応は必ず行いましょう。また、脈診、舌診による治療では脈と舌・舌苔の変化を見てその効果を確認しながら治療進めます。

  1. 脈状診で「細虚」や六部定位脈診で「腎虚」または「腎肝虚」では、復溜、または、太谿に(腎肝虚では曲泉を加えます)刺鍼し補法の手技を加えます。これだけで複視症状が改善することがあります。この場合、舌はやや赤味が強く、苔は少津少苔です。原因はラクナ梗塞など脳の微細循環不良が疑われるものと推測されます。腎は髄海を司ります。髄海は脳脊髄神経系を意味します。また、陰虚証の所見「五心煩熱」は陰虚の程度によりはっきり表れないばあいもあるように思います。

舌色が、暗紫、暗赤紫、または、汚班があるなどでは、血行不良による汚血や、とくに赤味の強いばあいは熱、炎症性の原因が潜んでいると考えられます。三陰交に刺鍼し瀉法の手技を加えます。舌色が赤紫や脈状に数の傾向があれば透天涼の手技を加え熱を除きます。汚血の脈状は柔らかく虚脈に感じることがありますが、虚のようでいて若干の重さを指に触れます。舌診上暗紫、暗赤紫、または、汚班が認められれば脈状が虚に思われても先ず三陰交寫を優先します。虚があるばあいは、その後、補えばよいのです。邪気が存在するとき補法を優先すると邪気を内攻させることになり、誤治により病状が悪化または複雑化すること言われます。

舌苔が膩苔の場合や厚く湿ぼったいばあいは、水湿の邪を除きます。複視の二重視のズレが上下方向の患者では脾胃の昇降作用と関係するためか、このような舌苔のことが多いようです。足三里、陰陵泉などを瀉法します。苔の色が黄色ければ湿に熱がからみますから透天涼を加えます。湿邪は粘着性のため除き難い傾向があり治療中は症状改善するが直後には戻ってしまうばあいなどがあります。飲食の嗜好傾向に注意が必要です。熱を増す油で炒めたり揚げたりした料理や、湿を増す濃厚な味付けや甘味の強い食品を摂り過ぎないなどご承知のとおりです。




■ 上頚部の圧痛の除去

眼精疲労など眼の症状や不調があると頚肩部が凝りやすかったり、天柱穴付近の頭半棘筋や、風池穴の下方に硬結や圧痛が現れることは臨床的によく見られます。複視のばあいにも、患側に同様の硬結圧痛があらわれます。 《霊枢・大惑論篇》には『邪気が項に当たったときに、身体が弱って(虚して)いると、その邪気は深くまで入って、目系に随い脳に入る。脳に入ると脳が転じ、眼系が引かれて急する。目系が急すると目が眩み転倒する。邪気がその精(「五臓六腑の精気はみな上って眼に注ぐ」と前述されていますに影響すると、精に当たったばあい、精と邪気は相ならばず、精は散り散りになってしまう。精が散ると岐を視る。岐を視るとは両物を視る』と記述されています。 したがいまして、項、すなわち頚部の痛みの除去は複視の治療上重要なことと考えられます。



  1. [脈診・舌診からの治療]項部、頭半棘筋の痛みは仰臥位で治療の前に確認します(治療も仰臥位のまま行います)。確認の方法は天柱穴付近を四指の指先で横方向にゴリゴリと切るように揉み、硬結と圧痛を左右比較します。そして、先ず、脈診、舌診からの治療を施し、先に診た項部の硬結と圧痛の軽減の程度を確認します。頭部外傷後に複視発症の場合、頚椎椎間関節捻挫のように頭頚部の関節部に炎症痕があるのではと思われます。この場合、舌色暗紫など汚血的所見が少しでもあれば三陰交寫を優先的に行います。下肢のツボへの補瀉だけでも体全体が変化し、凝りは軽減します。
[順経取穴]@の[脈診・舌診からの治療]で、硬結と圧痛が充分に消えない場合、@の[脈診・舌診からの治療]に[順経取穴]を加えます。項部の硬結・圧痛では、患側の崑崙(または申脈)穴へ刺鍼し瀉法を加えます。これに補助的に患側後谿穴に刺鍼し双手瀉法(崑崙(または申脈)と後谿の刺鍼を同時に動かす)します。

[頚椎側刺鍼法]これは私法ですので公的名称はないため[頚椎側刺鍼法*注1]とします。神経内科的には証明されていませんが、眼の症状と関連すると思われる頚神経は第2頚神経です。たとえば、「眼の奥が痛い」などの症状では、私法の「頚椎側刺鍼法」第2頚神経点(下図参照)にて容易に消すことが出来ます。もっと、眼の奥の痛みは三叉神経で、三叉神経は頚髄路が頚髄へ降りてきていますから神経的関連があります。これに対して外眼筋を動かす動眼神経、滑車神経、外転神経などの脳神経へ第2頚神経由来のインパルスがどう影響するかは不明ですが、複視の患者さんでは患側の第2頚神経点に必ず顕著な圧痛があります。ある症例ではここ(第2頚神経点)への刺鍼中、複視の二重像が消えます。このような場合には刺鍼しなくても、痛気持ちいい程度の圧迫でも同様の効果が出ます。すなわち刺鍼や圧迫により第2頚神経の興奮が抑制されると、複視症状が消えると言うことになります。私法の「脊椎側刺鍼」第2頚神経点の取穴方法は乳様突起の下に第1頚椎(環椎)横突起を触知し、その後下縁の下方に第2頚椎横突起の後結節を押さえこの上後縁が刺鍼点「第2頚神経点」となります。刺鍼方向は直刺からやや前方へ向けます。使用鍼は寸6−3番程度。刺鍼の深さは10〜25mm程度で、強い響きやズゥ〜ンとした重い鍼感を感じたら知らせるよう患者に伝えておき、患者がこれを感じたら項部の硬結圧痛の軽減変化を確認します。響きが得らなければ刺鍼方向をわずかに変えます。第2頚神経点は第2頚神経前枝、後枝ともに有効ですが、その効果は前枝に対しての方が強く、肩上部僧帽筋(C2〜4)や胸鎖乳突筋(C1〜2)の硬結圧痛を除きます。

Bの「第2頚神経点」の刺鍼で項部頭半棘筋の硬結圧痛が消失しない場合、やはり私法の「第2頚神経後枝点」に刺鍼します。取穴方は、先の第2頚椎横突起後結節の後方やや下に、同椎の関節突起の上面を平らな傾斜面として触れます。この面の後縁から前上方約45度(横突起の基部上縁)へ向け30mm前後(使用鍼は同じく寸6−3番)刺入します。響きを得ると項部の硬結圧痛は必ず軽減〜消失します。響きがなければ刺鍼方向を変えます。








頭半棘筋はC1〜6(及びそれ以下の頚・胸神経後枝)と筋の神経支配から下部からの影響もあるため硬結圧痛が強く残るばあい、先の第2頚神経点の下方の第3頚椎横突起後結節上後縁に「第3頚神経点」を取り刺鍼します(とくに肩上部僧帽筋の圧痛硬結が強く残っていれば頚神経前枝の興奮性亢進を押さえるため)。
また、先の「第2頚神経後枝点」の下方、ちょうど第2・第3頚椎椎間関節裂隙に沿って「第3頚神経後枝点」を取り、横第2・第3頚椎突起の基部の間へ(前上方約45度程度)向け刺鍼します。使用鍼、刺鍼の深さ同じです。ここ第2・第3頚椎椎間関節部には関節突起に起始付着する小さな筋の硬結のため硬く出っ張って触れるばあいがあります。このようなばあい、かなり強い圧痛がありますが、前述の刺鍼でこのような硬結も解消し楽な状態になります。

項部の頭半棘筋、その他頚肩部の凝り(筋の硬結と圧痛)を見て、必要に応じ第4頚椎以下に同ようの刺鍼を行うことがあります。頚肩部の緊張が充分取れたところでごく軽く頚部の徒手牽引を行うと患者は「眼が明るくなった」「眼がスッキリした」「頭がスッキリした」などなどと言い、眼や脳の血流が改善されたことが推測されます。

また、補助的にイオンパンピングコードの併用することもあります。健側風池穴へ患側の眼へ向けて刺鍼20mm前後軽い鍼感を得て黒クリップをつなぎ、患側の崑崙穴または申脈穴に赤クリップをつなぎます。これは眼の症状の他、後頚部が凝って頭がスッキリしないなどの症状に有効で眼や脳の血流改善効果があるものと思われます。この他イオンパンピングコードは眼の周囲穴[ 晴明(刺鍼は攅竹穴から晴明穴へ向けて刺鍼で代用)、瞳子リョウ(外眼角部眼窩の外から太陽穴へ向け刺鍼、または太陽穴で代用)、承泣(眼窩下縁から四白へ向け刺鍼) *注2]に黒クリップを着け下肢の関連経の原穴または絡穴などに赤クリップをつなげます。患部の余剰なイオンを遠隔部に逃がすと言う発想です。





■治療間隔は最初の10回程度を理想としては1日置きですが、最低でも週2回以上が望ましく、最初の1ヶ月に10回以上の治療を繰り返し、軽減感があれば続けます。発症からの期間が長ければ長いほど効果が出難くなりますが、発症から3年経つご高齢の患者さんで回復したケースもあります。





注:

*注1[頚椎側刺鍼法]は「胸椎」「腰椎」と合わせて[脊椎側刺鍼法]として頚神経、胸神経(肋間神経)、腰神経、坐骨神経しの各神経症状に対する有効な治療点(ツボ)の取穴方法を《「即効性の高い治療への試み」鍼灸業界月刊誌【医道の日本】へ平成18年2月から7回連載発表》したものです。神経解剖学的側面からの刺鍼法です。

*注2 眼の周囲穴については、晴明穴などから眼窩内へ刺鍼することは避けます。中医学鍼灸治療で斜視や外眼筋麻痺による複視の治療で眼窩内へ刺入し直接麻痺した外眼筋に刺鍼する方法を紹介するものがありますが、眼球の大きさに個人差があり、複視の患者さんの中には眼窩に対して眼球が大きすぎるため動きが悪くなり複視を発症するばあいもあります。眼球を傷つけ炎症を起こすと失明の危険性があります。






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セイ鍼灸院 ☆ 妹尾博彦