腰痛・座骨神経痛・大腿神経痛

腰痛で鍼治療にかかった・・・ことがあると言うのが「鍼治療を経験」するきっかけでは第1位?ではないでしょうか。
初診の患者さんに「鍼治療の経験はありますか?」と訊くとたいがいの経験者は『前に腰が痛くなったとき・・・』と応えます。腰痛は整形外科であつかう疾患で、画像診断で『変形性脊椎症』とか『椎間板が薄い(椎間狭窄症)』とか『角が棘のようになってる(骨棘形成)』とか、はたまた『脊柱管狭窄症』とか言われた方も多いのではないでしょうか?
ただし、腰痛や下肢痛と画像診断は必ずしも一致(正比例)しません。画像診断に全く問題がなくても腰痛・下肢痛になる人もいれば、画像診断が極度に疑わしいにも関わらず腰
痛が全くない人もいます。ある整形外科学会を代表する医師が2000症例だったか?3000症例だったか?『手術は全て成功したが、治療は全て失敗した』とかお話になられた・・・と聞きました。
これは、腰痛や下肢痛の多く(80%以上)が、器質的疾患ではなく機能的疾患だからです。整形外科の手術の大工仕事で骨の出っ張りや位置関係を正しくするのが器質的疾患への対応ですが、私が、鍼治療では無理ですから手術を勧めた例は40年の経験のなかで1例だけでした。その患者さんは椎間狭窄症が極度に進み腰を伸ばすと痛みが誘発されるため真っ直ぐ伸ばすことができない状態で、脊椎側刺鍼も鍼が進む隙間がなく無効でした。
ですが、このようなケースは極めて希です。多くは機能的な原因による腰痛や下肢痛です。

では、機能的とは・・・何でしょうか?

上の図は腰下肢痛の治療に即効性がある「腰椎の脊椎側刺鍼」(腰椎側刺鍼)の刺鍼部を側面から見た模式図です。図の上方が背中側で、下方が腹側です。左は上の椎骨に、右は下の椎骨につながっています。
刺鍼点は緑の太い横線「棘突起の高さ」を3等分した上から3分の1の点(で後正中線の外方20mm)になります。  赤い線は鍼が侵入する経路ですが、奥には脊椎から神経が出てくる神経孔(下切痕と下の椎骨の上切痕からなる)があります。その手前(図の上)の下(図の右)に「下関節突起」と書かれていますがこの「下関節突起」と図に描かれていませんが下の椎の「上関節突起」とから椎間関節が構成されます。この椎間関節に捻挫等が起こると神経の近くで炎症や浮腫が起こることとなり知覚神経分布域のシビレや痛み、運動神経の支配する筋の緊張亢進(凝りや張り)を生じることとなります。もちろん、関節周囲も痛みを感じる神経が豊富にあり強い腰痛を起こすこととなります。ここに正確に刺鍼すると「一鍼神の如し」と言うような即効性があり・・・神経の興奮が鎮静され関節の炎症が治まり・・・当院では1~2回で完治することが多くあります。

洗面所で顔を洗っていたら急に腰が痛くなって・・・完全に伸ばせない。 こんなときどうしたらよいでしょうか?
下図のような姿勢・動作をためしてみてください。

腰痛のとき、最も楽な姿勢は下図のように…

 上向き(仰臥位 ギョウガイ )に寝て、下肢を曲げて膝を手で支えます。このとき、膝を強く引き寄せないこと、軽く手を添えて姿勢を維持する程度とします。床にはせんべい布団程度のものを敷くとよいでしょう。数分経過すると強い痛みが落ち着くことが多いです。
 足にクッションなどを入れ楽な姿勢を保持して、次に説明する「腰腿点」を指で押すことを試してみましょう。

腰腿点 ヨウタイテン ・・・腰や脚の痛みに効く手のツボ

腰腿点は「痛みを止める要穴」です。自分で指で押しても効果があります。小さくちぎったアルミ箔米粒大に丸めてこのツボのテープで貼り付けて置くと知らないうちに腰痛が治っていることも・・・
また、このツボは “腰痛”を治療するツボとされていますが、腰痛や臀部、大腿部の痛み以外にも、生理痛便秘にも効
果があるとされます。自分で治せたら~いいですね!

ツボの位置は手の甲(手背部)にあります。
だいたい… ↓ このへん・・・・・・

手の甲側を人体の背部から見た状態に見立てます。中指が頭と頚で、その下、第3中手骨が背骨です。

腰腿点のツボの取り方は、手背面で第1中手骨と第2中手骨の間の圧痛と第4中手骨と第5中手骨の間の圧痛とを左右4ヶ所比べて最も強い圧痛を選びます。腰の右側に痛みがある場合は右手の第4・第5中手骨の間、腰の左側に痛みがある場合は左手の第4・第5中手骨の間に強い圧痛が出やすいようです。最も圧痛が強い点を選びます。

米粒程度にアルミ箔を小さく丸めてサージカルテープ(絆創膏)で貼り付けて置く、エレキバンのようなものを貼ってもよいです。

❏ 八王子さん(八王子市在住70代女性)は、腰から脚の痛みが近所の接骨鍼灸院へ通っていたのに一向に治らず、当院ホームページで「腰腿点」のことを知り試してみたところ、『 劇的な効果がありビックリするほどだった 』と言います。これは、その後、当院を受診されたときに聴いた話しです。
この患者さんは、長く腰痛と下肢痛を病んでいましたが、市内の鍼治療で効果なく…、遠く小田急江ノ島線南林間までお越しになります。もっとも、日常的には近くの接骨院を利用しそこで治らないと当院へ来る・・・と言う当院が「最後の砦」になっているようです。この方の下肢痛は大腿神経痛と座骨神経痛が混在している状態です。少し手間のかかる状態ですが、来院すると、来たときとは別人のように元気なってお帰りになります。

当院の腰痛・下肢痛の鍼治療の実際

鍼治療には多くのやり方・考え方があります。単純には「痛いところに針を打つ」だけのやり方から「針に低周波(パルス)通電」しないと気が済まない人、「浅い針を沢山打つ」人、さまざま方法論があります。

当院では本来の鍼治療「内経医学 ダイキョウイガク」(原典:黄帝内経 コウテイダイケイ)の理論に基づいた治療を行います。この内経医学では「臓腑経脈の気の流れが滞ったところに病や痛みが生じ、気の流れの正常化により治癒する」と考え、気の流れを阻害する原因を「脈診」「舌診」「腹診」「募穴診」「切経」などの内経医学独自の診察法にて見つけ、原因の除去と経脈の気の流の疎通を計ります。これにより身体は動のように変化するか・・・と言うと、全身の末梢循環が改善されます。末梢循環とは、単に手足の先ではありません。脳や内臓、筋肉の組織細胞レベルでの循環です。当院の鍼治療の後、眼や頭がスッキリし身体が軽く感じられるのはこのためです。

この項の腰痛・下肢痛では、整形外科的疾患の部類ですが、主体となる筋肉を内経医学では「筋肉は肝」のつかさどるところ・「骨は腎」のつかさどるところと考えます。
また、五臓六腑の五臓「肝・心・脾・肺・腎」は、五行思想により「肝=木」「心=火」「脾=土」「肺=金」「腎=水」に分類されます。加齢現象は生命の根源的物質「腎陰」の減少不足に由来すると考えられ、腎は骨をつかさどりますか加齢的変化は骨に現れます。また、腎陰=腎水は「肝木」の母にあたり、腎陰・腎水の不足は「肝」がつかさどる「筋肉」の衰えにつながります。したがって、筋・骨に関わる整形外科的疾患全般、特に「腰痛・下肢痛」は、腎肝の陰気をいかに補い健全にするかと言うことになります。が、すべてが単純に腎肝を補えば済む訳ではありません。

当院でよく使われるツボ

上図のツボの運用
❏ 脈診、舌診などを行い気の流れを阻害する原因を見つけこれを取り除きます。
 ① 急性腰痛などで痛みが強い場合
   脈も弦脈など強く拍動、舌色赤紫などでは
   太衝、三陰交、陽陵泉、申脈、足三里、曲池などを瀉
 ② 腰下肢痛の痛みの質が重怠い痛みの場合
   脈は緩虚で力なく弱い、舌色淡くむくみぎみで絶縁に
   歯の痕(歯痕)がある、身体怠く、胃部不快などあり
   足三里瀉、陰陵泉平瀉平補、陽陵泉瀉、申脈瀉
 ③ 脈沈細数(沈んで骨に近い部位で細く速く拍動する脈)
  で、舌赤く苔が少なく乾いている「腎陰虚」の場合
   大腿四頭筋が突っ張って硬く押すと痛みがあるものは
   足三里瀉、曲池瀉(足三里と左右交差し双手瀉法)を
   行い大腿四頭筋の突っ張り硬結・圧痛の変化をみる。脈
   を診て沈細数、舌を診て少津少苔がつづいていれば、
   復溜補、曲泉補を行う。大腿四頭筋はさらに柔らかく
   なるはずですので、これを確認します。
 ④ 下肢伸展テスト(SLR)での下肢後側から臀部の突っ張
  り痛い場合
   申脈瀉、陽陵泉瀉、項部頭半棘筋の凝りや肩関節後面
   の三角筋後部や小円筋に硬結・圧痛があれば手太陽後𧮾
   と足太陽申脈を双手瀉法するとよい。
 ⑤ 下肢外側に痛みが強い場合、また、前腸骨棘の内側下腹
  部に痛みやしびれがある場合
   陽陵泉瀉、足少陽臨泣リンキュウと手少陽外関双手瀉法

以上で・・・痛みや筋の突っ張りは軽減、患者・症状によっては以上の治療だけで全く痛くなくなることもありますが、つづいて・・・

神経解剖学的見地から痛みを取り除きます

❏ 腰椎の脊椎側刺鍼「腰椎側刺鍼」

「脊椎側刺鍼法」は私が鍼灸業界誌「医道の日本」に連載した「即効性の高い治療への試み」(2006年)の中で発表した刺鍼法です。筋の緊張(硬結・圧痛)をその筋へ神経を送り出す脊椎側の圧痛に刺鍼し、脊椎側の圧痛が消えると支配神経が行く先の筋の硬結・圧痛もその筋へ刺鍼することなく消失する。この関連性のもと筋の硬結・圧痛の触診と脊椎側刺鍼とセットとして、脊椎側刺鍼の正確な施術の確認として筋の硬結・圧痛の消失を診ることにより完全な治療効果を得ることに成功したものです。刺鍼の効果が即確認できる、確認する…ことに意義があります。

❏ 腰椎側刺鍼の実際

上図は、腰痛(上臀神経領域を含む)下肢痛(大腿神経領域と座骨神経領域)の圧痛点と筋硬結(筋緊張亢進)のチェックポイントです。

  • 大腿前面「大腿四頭筋」
    多くは第4腰椎側刺鍼により解消します。次に第3腰椎側の場合があります。深部圧痛で確認します。第2腰椎側の影響は極めて希です。
  • 大腿外側「風市穴」「大腿筋膜張筋」「後上腸骨棘外下部圧痛」これらは上臀神経L4L5の神経支配です。
    多くは第4腰椎側刺鍼で軽減~消失します。
  • 臀部「梨状筋」「上臀神経」(上図不記載)
    多くは第5腰椎側刺鍼で軽減~消失しますが、軽減し難い場合があります。この場合、第5腰椎側刺鍼に合わせて梨状筋部刺鍼、または、上臀神経部刺鍼を行い、双手瀉法とします。
  • 大腿後側「大腿二頭筋長頭」
    ほとんど、第5腰椎側刺鍼で消えます。もし、消失し難ければ、大腿二頭筋長頭腱部(膝窩横紋の上方)に刺鍼し双手瀉法します。それでも硬結・圧痛が残れば硬結部に刺鍼し双手瀉法します。
  • 下腿前外側「前脛骨筋」足三里穴付近
    第5腰椎側刺鍼で消失します。効果が弱ければ足三里穴刺鍼と双手瀉法します。足三里の刺鍼は抜けない程度の刺鍼深度とします。
  • 下腿外側「長・短腓骨筋」
    第5腰椎側刺鍼で消えず残った場合、仙骨孔(仙骨孔に刺し入れる必要はない)に向けて第5腰椎側の下仙椎部に数本刺鍼し、陽陵泉穴、外丘穴等の刺鍼と双手瀉法を行います。
  • 下腿後側「腓腹筋」
    第5腰椎側刺鍼で消えず残った場合、仙骨孔(仙骨孔に刺し入れる必要はない)に向けて第5腰椎側の下仙椎部に数本刺鍼し、承山穴や腓腹筋外側頭・内側頭の硬結部刺鍼と双手瀉法を行います。

❏ 腰椎側刺鍼の方法

❏ 腰方形筋の張りや痛み

腰方形筋は腸骨の上際…腸骨稜…から腰椎肋骨突起を経て肋骨に達するインナーマッスルで腰椎・体幹を支える重要な筋です。この筋が疲労して硬く凝った状態で筋力を落とすと、ギックリ腰など起こしやすくなります。
また、『腰がお弁当箱のように四角く凝った感じでつらい』とこの筋自体が意識される場合もあります。この状態は「腰椎椎間関節捻挫」など激しい腰痛を起こす前段階と言えます。腸骨の上の腰のクビレ(クビレがない方もいますが・・・)を外側から腰椎(背骨)の方向へ強く押し込むと凝った痛みが感じられます。

腰椎側刺鍼を行って・・・腰方形筋に張り(筋緊張)や圧痛が残る場合、または、当初よりこの部の張り感を強く訴える場合、腰椎肋骨突起(黄突起ではく腰椎の場合大きく外方へ伸びる突起は肋骨突起です)外端部の圧痛を確認しここから腰椎へ向け∠30度ほどに鍼を寝かせやや上方へ向ける。ズンとした鍼感を得るが、刺鍼転向法にてさらに上方へ向けるとビリッとした電撃様のヒビキを得る。鍼を抜き肋骨突起部の圧痛を診ると柔らかく押せ圧痛は消えている。
硬結・圧痛は、第4腰椎肋骨突起部に最も多く、次いで第3腰椎肋骨突起部となる。第2腰椎肋骨突起では希で、第1腰椎肋骨突起ではほとんどなく、この辺りで圧痛が顕著とすれば第12胸椎からの第12肋骨端、すなわち、第12肋間神経痛に関連する.


❏ 腰痛の運動刺法

お辞儀をする動作(前屈運動)で痛い・腰を伸ばす後ろへ反る動作(後屈運動)で痛い・・・など、最も痛いところに刺鍼(刺鍼の深さは回旋の手技を加えて鍼が抜けない程度の皮下から筋膜表面に鍼先が接する程度)し、腰痛を誘発する動作(運動)をゆっくり行ってもらいます。その間、刺鍼に2分の1回旋程度の捻りの手技操作を素速く加えます。1~2回動作を繰り返すと動作時痛みが消失していることに気が付きます。この運動刺法により腰仙部の表在の突っ張り感・筋緊張亢進(筋筋膜部の過緊張)が取り除かれます。

これだけでも、かなり楽に動けるようになります。
ただし、これだけでは深部に腰痛の原因が残ってしまいます。腰椎側の深部圧痛の有無の確認や腰方形筋部、臀部下肢領域の筋緊張の亢進(硬結・圧痛)の確認等から腰椎側刺鍼を行います。
また、腰椎側刺鍼を行ったあと、動作で突っ張り感が残る場合にも、後からこの運動刺法を行う場合もあります。

❏ 腰痛の予防「開脚側屈」

腰痛が治ったら、腰痛になる前に・・・
身体がかたい・・・腰や背骨がかたい・・・を柔軟にする方法です.
目的は背骨の両側に並ぶ椎間関節と股関節を柔らかくすることにあります。

まず、① 開脚して座ります。脚は出来るだけ広く開きます。
開脚側屈をする前に、試しに前屈「前に曲げてみましょう」どこまで行ったか覚えておきます。
下図のように ② 曲げる方の肘から先「前腕」を膝から太もも「大腿」に添えて上体を安定させます。 ③ 曲げる方の側胸部を太もも「大腿」に近づけるように、伸ばす方の手は頭を越えて足先を目指すイメージで、反動をつけたりせずにゆっくり限界を感じる角度まで曲げ、その状態を10秒ほど維持しゆっくり戻します。一呼吸置いて、同じように逆側を行います。これを左右交互に3回やってみてください。
3回やったら、最初に試した前へ曲げる「前屈」をもう一度試してみます。最初より楽々出来ることが分かると思います.
左右3回づつ・・・毎日~時々思いだしたときだけでもやって行くと、腰の柔軟性が戻り、股関節も柔軟になりやる度に脚が広く開いて行くようになります. 股関節の可動域が広がると腰の動きをカバーするようになりさらに腰が楽になって行きます.