眼精疲労・複視・眼の諸症状

眼精疲労・・・は、なぜ?「精」の漢字がつかわれいるのでしょう・・・
この「精」は鍼灸医学や漢方の伝統医学の考えに由来するものです。
鍼灸医学の原典「黄帝内経 コウテイダイキョウ《霊枢 レイスウ・大惑論篇》」には「五臓六腑の精気はみな上って眼に注ぐ」とあり・・・眼の機能維持に欠かすことの出来ないものとされています。この「精」が眼精疲労の精の由来なのでしょう。

《参考までに…漢代200 B.C. ~ 200 A.C. に編纂(散逸したが唐代762 A.C.に医家の王冰により再編・注釈)された「黄帝内経霊枢大惑論篇」を・・・意訳すると次のように書かれています。・・・・
・・・・「五臓六腑からの精気によって、眼や眼筋など眼の付属機関や眼窩などが形成され機能が維持されている」そして、眼をかたちづくった筋骨血気の精は「脈とならんでつながりをなして上って脳に属し、その後、項(うなじ)の中央に出る」もし「邪気が項に当たったときに、身体が弱って(虚して)いると、その邪気は深くまで入ってしまい、目系に随い脳に入る。脳に入ると脳が転じ眼系が引かれて、目系が急する。目系が急すると目が眩み転倒する。邪気が目系の精に影響し、精に当たったばあい、精と邪気は相ならばず、精は散り散りになってしまう。精が散ると岐を視る。岐を視るとは両物を視る(複視または乱視)ことである。眼は五臓六腑の精である。栄衛魂魄の常に栄養するところ。神気の生ずるところ。ですから、神を労すれば魂魄散り志意乱れ、これゆえ、瞳子黒眼は陰にのっとり、白眼赤脈は陽にのっとる。ゆえに、陰陽合して伝わり、しかして精明なり。目は心の使なり。心は神の宿る(舎)ところなり。ゆえに、精神乱れれば、突然常にあらざるところを見る。精神魂魄散れば(見るところを)相得ざるなり、ゆえに、惑と言う。・・・・・》

当院では… #眼精疲労 だけでなく…「物が二重に視える」 #両眼複視 や #乱視 も鍼治療を行っていますが、眼の血流改善とともに「五臓六腑の精」を補い充実させることが症状改善カギとなります。
この「五臓六腑の精」ですが…、「精」は本来「腎」に貯蔵される陰性の気(物質)です。鍼灸医学の陰陽五行論の考え方は、純陰・純陽は存在せず「陰中に陽あり」「陽中に陰あり」と考えます。腎の蔵する「精」も五臓六腑に分配され各々の気と混ざり合って存在します。正確には、飲食による水穀の清微(栄養素)が、腎の精気の作用を受けて「精」となり各臓腑へ運ばれ…さらに各臓腑の気の作用を受け「五臓六腑の精」となると説明した方がよいでしょう。
したがって…、治療では、もし、胃腸の調子が悪ければ胃腸を整えることから始める必要があります。
それが、また、眼の治療に直結する…のが鍼治療の便利なところです。

このホームページの「当院の治療の特徴」の「経脈」の説明をご覧いただくと分かりますが、胃腸の症状改善に用いる胃の経脈「足陽明胃経」と大腸の経脈「手陽明大腸経」は顔面部「眼」を交会(コウエ経脈の流が交わり会うこと)点として手足の流がつながっていて、手足の陽明経脈「大腸経」と「胃経」は眼にとっても重要な経脈なのです。胃腸の改善と眼の治療が同時進行になります。

次に、頚の凝りなどがあると「眼」に影響します。
経脈的には足太陽膀胱経を主に、ときに手足少陽経脈も用います。特に、太陽膀胱経の項の部位「天柱」穴付近の凝りや痛みは眼精疲労など眼の症状改善には除去しなければならい指標となります。
経脈の運用とともに、肩凝りや頚肩腕部の治療方法「頚椎側刺鍼法」(このホームページの「当院の治療の特徴」の❏「頚椎側刺鍼法」頚部の神経解剖学的側面からの刺鍼法の説明をご覧ください)を用います。
この「頚椎側刺鍼法」の刺鍼点は頚椎横突起から頚神経後枝が後方の関節突起方向へ分かれ出るところに当たります。
頚の各椎骨に同じように刺鍼点を取りますが、第2~第4頚椎側でこの点を強く指圧すると、同側のコメカミや眼の奥、眼窩周辺、鼻腔の上や奥、上咽頭部、頬骨の辺りなどに圧迫感やムズムズ感など感覚を覚えます。顔面部の知覚ですから三叉神経の感覚です。
三叉神経は、脳神経ですが三叉神経脊髄路と言って脊髄内へ下りてきます。そして各頚髄(脊髄)のレベルで「三叉神経脊髄路核」と言う連絡所があります。
頚椎側刺鍼点の指圧による圧迫刺激は、後枝知覚神経繊維により脊髄後角へ伝わりその近隣にある「三叉神経脊髄路核」へ影響し顔面部の三叉神経知覚域に投射し、コメカミや眼の奥の痛み・・・などを生じるものと考えます。
ある複視の患者さんでは、右第2頚椎側付近が痛くなると眼の奥のが痛くなり複視が増悪する…例がありました。そして、第2頚椎側刺鍼を行い頚の痛みが無くなると眼の奥の痛みも複視も治る…と言う相関関係にありました。

そこで、解ることは・・・・・・
頚部の痛みや筋緊張(凝り硬結があり圧迫すると凝っていて痛いことを自覚するが、平素は気が付かない場合がある)は、三叉神経脊髄路核を介して顔面や眼、鼻などに三叉神経の緊張を引き起こす。三叉神経は痛覚(知覚)をつかさどる神経のため「痛み刺激」として周辺部の交感神経の緊張を引き起こし血行不良を招く。これが眼に起きれば眼精疲労や視力低下、外眼筋に血行不良がつづけば両眼複視や斜視などが起こる可能性があります。両眼複視になって検査したが原因が見つからず、鍼治療で1回で治ってしまったなどは、この典型例です。鍼治療の効果は「末梢血流の改善」ですから・・・。
余談ですが、眼の症状以外にも、鼻づまりなど何年もつづいて治らなかったものが改善したり、上咽頭部不快感(上咽頭炎)がスッキリしたり・・・などの治療例は枚挙にいとまがないほどあります。

頚部の痛み凝り→三叉神経脊髄路核→投射→顔面など三叉神経分布域の血行不良→その領域の原因不明の諸症状

経絡的処方と頚椎側刺鍼法にて末梢血流改善で治癒です。