肩凝りの治療の延長線上にある・・・頚椎症性神経根症の肩甲挙筋の痛み四十肩・五十肩・肩関節周囲炎・上腕二頭筋腱炎_

いわゆる四十肩・五十肩などは、頚椎の加齢的変化(椎間板の弾力性が弱まり薄くなるなど)にともなって起こります。加齢的変化にともない神経根付近に軽い炎症が起きると神経が刺激され支配域の筋に凝りが生じます。知覚神経の刺激は軽微なものは意識に上らない仕組みがありますが、運動神経のには緊張が持続的につづき筋は疲労します。関節周囲で筋が疲労しているところへ負荷がかかると関節の運動は不安定なものとなり関節周囲に炎症を起こしたり、筋自体に小さな肉離れのような傷を生じることとなります。
これらの原因は各筋は運動神経を出す頚椎の関節突起から黄突起後結節方向へ圧診すると、硬結を触れ強い圧痛があります。この方向へ「頚椎側刺鍼」を行い硬結・圧痛が消えると、即、当該の筋の緊張(凝り)と圧痛も消失します。

❏ 頚椎症性神経根症「上を向くと」肩甲挙筋部の痛みが増悪

頚椎症性神経根症の診断名を整形外科で受け、肩甲挙筋(下図参照)部に痛みを訴える方がいます。大きく上を向く(頚椎を後屈)ような動作で痛みは強くなります。

肩甲挙筋へは第4頚神経第5頚神経から神経が来ています。下位頚椎の第5、第6は加齢的変化の影響が最も出やすい部位ですので、この場合第4よりも第5に問題があることが多いでしょう。圧触診して決めますが、上下に並んで関節突起部に硬結・圧痛があることはよくあります。この場合上下の硬結・圧痛も消した方がよく治ります。関節突起に付着する多裂筋などは2~3椎またいで付いているためです。
頚椎側刺鍼により頚椎の圧痛・硬結が消失すると、肩甲挙筋の圧痛・硬結も消失します。
ただし、頚椎の加齢的変化「変形」が著しく機械的に神経圧迫があるような場合、効果は出難く、効果があっても一時的で持続しない場合があります。このような場合は手術の適応例と思われます。
頚椎側刺鍼では、神経根付近の炎症を鎮めることで炎症の浮腫により神経圧迫が増強されていたものを軽減し、また、神経の走行経過中の筋の緊張も緩むため、筋緊張による神経の圧迫や牽引と言う神経症状増悪因子もなくなります。

❏ 四十肩・五十肩・肩関節周囲炎

肩関節の運動に関わる筋群{棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・三角筋・上腕二頭筋・小円筋・大円筋}は、すべて第4、第5、第6頚神経からの神経支配です。
神経はその神経根付近の炎症により興奮しその先の筋に緊張を引き起こします。挙上など上肢の運動で痛みや違和感を感じるものに、下図に示す第4、第5、第6、の頚椎黄突起後結節付近を指三本の指頭が正確に当たるようにして押圧を加えます。押圧の程度は強く押して痛みを感じる圧を少し緩めて「痛気持ちいい」程度とします。この押圧を加えながら挙上など痛みを誘発した上肢の運動をすると、痛くなくスムースに動かせることが分かります。押圧により神経の興奮が鎮静される肩関節を楽に動かせるわけです。
したがって、五十肩の治療は、第4、第5、第6頚椎側刺鍼によりこれらの神経の興奮を鎮静させればよいことがわかります。

❏ 運動刺法

最初期のもので挙上運動等で違和感を感じる程度、もしくは極めて軽い痛みの場合・・・運動刺法

五十肩の運動刺法は、運動・動作で痛む・違和感がある場所が肩関節のどこにあるかで用いる経脈経穴を選びます。肩関節の「前面」であれば手陽明大腸経:合谷穴、「外側面」であれば手少陽三焦経:中渚穴、「後面」であれば手太陽小腸経:後𧮾穴などとなります。2分の1回旋の手技を加えても抜けない程度に刺鍼し、回旋の手技を加えながら痛みを誘発する動作を行います。1~2回で痛くなく動かせます。回数多くやると、後で重怠い疲労感が起こるので少ない回数とします。

❏ 反対側刺鍼 と 知熱灸

五十肩での肩関節の圧痛は、正確に健側の対称点へ「反対側刺鍼」を行うと鍼を打たなかった患側の圧痛が軽減~消失します。完全に消失しなかった圧痛には「知熱灸」を加えます。知熱灸は温灸用のモグサを拇指頭大の円錐形にし熱さを感じたら取り除いてしまう灸法です。圧痛が軽減~消失します。
よく起こる圧痛点の場所は、棘上筋腱が停止する大結節や上腕二頭筋長頭腱が通る結節間溝、肩甲下筋が停止する小結節、上腕二頭筋長頭腱が停止する関節上結節などです。

❏ 五十肩は頚椎の加齢的変化が原因ですので、鍼灸医学的に「加齢」に対応します

まず、突っ張りや硬結がありますから、気の流れを阻害する要因を除去し、鬱滞した経脈の気の流れを疎通します。阻害要因として多いのは、水飲・水湿・湿濁等の湿がらみ陰性の邪気です。
脈診では、「緩弱」など虚系の感触を受けますので、多くはこれを見逃し、気付きもせず、六分定位脈診で「左尺中関上が弱い」=「腎肝虚」だなどとしてしまいます。加齢的変化には、確かに腎肝虚の要素はあります。腎は骨、肝は筋を司りますから、腎肝虚として足少陰腎経:太谿穴補にて骨を補い、足厥陰肝経:曲泉穴補にて筋を補う・・・処方が当てはまります。
しかし、邪気邪実を瀉し取り除くことを忘れてはいけません。飽食の時代、虚証よりも「水飲・水湿・湿濁」等の飲食に関連しての邪気が多く存在しています。これらは陰性の邪気で目立ちません。脈有力とはなりません。緩弱や軟など弛緩した虚の脈状です。舌診を行います。腎肝虚では腎陰腎水が虚(不足)のはずですから舌苔は「少津少苔」で乾いていなければならないはずです。舌質は赤く(陰虚内熱)陰は形を為しますからこの不足は舌が小さい感じに見えます。苔が少なく乾いていて脈は細数であれば、足の少陰腎経「復溜」または「太谿」補法にて腎水を補うと筋が潤い・・・これだけで腕が楽々挙がるようになる・・・そんな症例も昔経験したことがありますが、極めて希なものでしかありません。

現在、多くの場合、水湿の邪気が脾気に影響しつつ、賊邪として(土克水)腎気を弱めている構図です。ここで水湿を除去せず腎を補うと賊邪を腎に追い込むことにもなりかねません。水湿の除去と健脾を行い舌苔がキレイな薄白になると、補わなくても腎の脈出てきます。逆に左関上が強めになったりします。気の鬱滞の現れです。太衝瀉にて疎肝利気、罹患部位走行の陽経脈を瀉法し経気疎通をはかりましょう。
それでも、脈診で沈細弱や舌の潤いが不足して見えるようでしたら復溜補を施すことになります。