「美容鍼灸」と言うと、顔いっぱいに針を何十本も刺している・・・そんな宣伝写真を思い出すのではないでしょうか。
健康は美しい
本来、健康は美しいものです。正しく鍼治療を行うと全身の末梢循環が良くなります。健康な人は、神気が顔に現れています。血色の良い艶やかな顔をしているものです。顔に針を刺す必要はあまりありません。
ある夏の暑い日、30歳女性が来院して『いつも美容鍼灸に通っていますが、目の下のクマとその周り青い血管を目立たなくすることができないんです。なんとかなりませんか?』と言います。・・・そうは言うものの、炎天下徒歩で来院したため顔は軽い日焼けか?赤くほてっていてよく分かりません。本人は「いつも青白い顔色」だと言います。
脈診をすると脈は、浮いてやや強くやや速い、舌を診ると表面の苔が薄く黄色・・・でした。脈が浮いているのは邪が体表にあることを意味し、速いのは熱を意味します。舌苔も薄く黄色いのは表に熱を受けたことを意味します。
手陽明大腸経の肘のツボ「曲池」穴に刺鍼し熱を除く瀉法の手技「透天涼」を加えます。浮いた速い脈が落ち着き、舌苔の黄色が消え薄く白い状態に変わると、顔のほてった赤さが引き、本来の体質的な萎えてやや黄色い顔色に目の周りの青いスジのように走る静脈が分かります。
腹診では、お臍ヘソの左に硬く強い動悸が触れ・・・腹部大動脈瘤?かと思われるほどでしたが、圧迫により痛みと共にどこかへ消えて無くなった・・・ことから考えると、痩せた女性ですから「遊走腎」だったのでしょう。お子さんがお腹に乗ると『左側はいつも痛い』と言います。本来、遊走腎は立位で下がり仰臥位になると後腹壁へ戻るものですが・・・。
遊走腎など内臓を保持出来ないのは「脾気虚」となります。顔色の萎えた黄色と一致します。脾気虚では水分の運化能力が落ちるため浮腫が起こりやすくなり顎のラインがスッキリしないや目の下のたるみが目立つようになります。また、お臍ヘソの左の硬結・圧痛は肝の気の鬱滞を意味します。本来、気虚ですから、気鬱の症状としての現れ弱くなりますが、肝木は脾土に対して木克土の関係です。脾気をさらに弱める結果にもなります。顔面の青スジは肝気鬱滞と関係しています。
治療の処方は
まず、肝経脈の足のツボ「太衝タイショウ」穴瀉法にて肝気鬱滞を除きます。
顔面部を循環する手足陽明経脈を双手瀉法し経気の疎通をはかります。陰陵泉平補平瀉にて水湿の運化と健脾をはかります。血脈は心これを司るので、脾土の母、神門穴を補います。補助的に「天容」穴に刺鍼、このツボは上を意味する「天」は頭面部を意味し「容」は「容姿・容貌」の「容」ですから、美容には持って来いのツボの名前です。これは、下顎角の後ろ前斜角筋の前で、外頚動脈が顔面動脈と分岐する付近に当たります。これに前頭部から眼鼻付近の血流改善に関係する第2~第4頚椎側の圧痛・硬結を診て頚椎側刺鍼を加えます。最後に頚椎の徒手牽引を行うと、眼から頭がスッキリしたことが分かります。顔の血色は良く顎のラインはスッキリ、眼の下のたるみ、眼の周りの青スジは目立たなくなり、鏡を見た本人も納得です。
この患者さん、『来週、日曜日に友人の結婚式に招待されているので、次の土曜日にもう一度来ます。』と言うことでした。次の土曜日も同様の処置でさらにいい感じに・・・。
後日、ご主人が背部痛で来院しましたが、「奥様どうでしたか?」と訊くと「よろこんで」いたそうです。