心肺機能の改善・不整脈・心房細動

心臓の症状「動悸・息切れ」「不整脈」「心房細動」「脳虚血・小刻み歩行」の鍼治療

鍼灸治療では、病状・病勢を把握するのに脈診を行います。

この脈診(脈状診)で「不整脈」の「脈が飛ぶ」のを「結」とか「代」と言い、合わせて「結代」と呼びます。

「結」と「代」は厳密には違う脈ですが、区別するの難しいでしょう。

*「結」は、脈の打ち方がゆっくり(遅脈)で弱く(弱・虚脈)、規則的な間欠(脈が飛ぶ)がある。鍼灸医学的には「寒凝気滞」(「寒邪」=「冷え」または「陽気の不足」により気の流れの滞り)が原因です。

*「代」は、脈の打ち方が緩く(緩脈:ゆるく弛んだ感触の脈の打ち方)、ゆっくり(遅脈)していて、弱く(弱・虚脈)、規則的間欠(脈が飛ぶ)がある。

◈◈◈「結」と「代」の違いは、「緩脈」傾向の「ゆるんだ・弛んだ感じの柔らかさ」があるか・ないかです。これがあれば「代」と言うことになります。(呼び名ともかく・・・)

また、脈状診とともに「六部定位脈診」を行います。脈状診で「結」が見られる場合、原因として「寒凝気滞(冷え寒邪のために気の流が滞ること)」などで「気滞・気鬱」があると、虚脈のなかにもやや硬く強い脈を「左関上」や「右尺中」に触れることがあります。「左関上」は「肝」ですから、ここが有力の場合、「肝気鬱」で「気の実」状態ですから「肝」から見てその「子」に当たる「心」に「心気不足」の症状としての「不整脈」は起こり難いでしょう。
 これにたいして「右尺中」は「心包」の診どころです。「心包」は心の外衛で、別名「心包絡」です。これには「冠状動脈」が含まれるように思えます。ここに気の滞りがあれば、気によって血は運ばれ巡りますから、気の滞り=血流の滞りと言うことになります。血の滞りは瘀血を生じます。広義に見れば、瘀血には動脈硬化が含まれます。次の舌診の瘀班や舌質暗紫などと関連させて判断します。

舌診も参考に治療法を考えます。わりと舌質の色は暗紫だったり、汚班があったりで、瘀血や血行不良を伴うことが多いようです。それでいて舌尖部の血色は淡かったりして、舌は全体が心の栄(心臓の状態を反映するところ)ですが、そのなかでも舌尖はさらに心を診るところに分類します。舌尖の血色が淡いばあいは、心血虚、心陽虚が疑われます。脈は細く、弱い、陽虚であればこれに「遅」の傾向が強くなります。また、舌尖は淡いのに、舌尖に近い舌側に瘀班が見られることがあります。

心症状の反応としての筋硬結(凝り)と圧痛(圧迫すると痛みがある)は、(下図-左)の上背部左側、背骨と肩甲骨の間「厥陰兪」「心兪」の辺りと、(下図-右)の前腕部正面、肘関節横紋の曲沢穴や少海穴やそれぞれのツボの前、円回内筋(下図-右のB)や長掌筋、尺側手根屈筋など(下図-右のA)に現れます。

鍼治療は、虚実寒熱を分かち、虚は補い、実は瀉し、寒なればこれを温補、熱ななればこれを除くわけですが、上の「結」「代」ともに「遅」と「弱(虚)」の傾向があります。

私の治療院は「鍼」が主なため「鍼治療」と言ってきましたが「鍼灸治療」と「灸」を入れるべきであったでしょう。と言うのは、「寒」「冷え」と言う症状・病状は「陽気」の不足ですが、これを鍼の手技で補うこともできますが、灸の熱(暖める作用=温補)を用いる方が効率よく不足する「陽気」を補えるからです。

① 先ず舌を診て、舌に瘀班や舌質暗紫色があれば、
   ======⇒ 三陰交、内関を瀉法します。
また、内関には「胸中の気を和す作用」があります。
その他、舌苔の異常も湿邪や水飲、痰濁、寒湿など陰性の邪気の存在は陽気を拒み気機を障害するので見られれば瀉法を加え除きます。

② 次に脈が細虚で舌が淡く、特に舌尖が淡ければ心血虚です。
   =======⇒ 三陰交、神門を補います。左尺中「腎」が細虚であれば、太谿補を加え精血を同時に補います。特に、高齢者では精血虚損(不足)が多くなります。

③ 背部の厥陰兪、心兪の凝りは内関瀉法にて多くのばあい消えます。心症状としては、左厥陰兪、心兪に出ますが、右側に訴えがあるばあいもあります。たいがいは背部と同側の前腕ぶ、曲沢穴前方に硬結・圧痛が診られ、内関瀉にて曲沢穴付近の硬結・圧痛が消えると、背部も楽になっています。

④ 背部心兪を軽く擦ると陥凹を触知するばあいがあります。霊枢「経脈篇」などでは、経穴(ツボ)が「窪かなる」には「灸せよ」と書かれています。窪んでいるのは虚の現われです。ばあいによっては、窪んでいる辺りが湿っぽかったりします。陽気が不不足しています。このようなばあい脈は「弱く遅く」途切れがちでしょう。
    ======⇒ 半米粒大~米粒大の灸をすえますが、下5分の1程度まで燃えていったところで、術者の示指と中指で艾柱の直側を挟むように押さえ、熱感の緩和と酸素不足にによる艾の火が消えるようにします。これを5~7壮加えます。灸痕を残さないよう注意しましょう。

❏ 心房細動がなくなってる!

 ずいぶん以前の患者さん(当時60代女性)のことです。私が病院勤務時からの患者さんで、独立開業後も体調不良の折には来院されていました。 しばらく来院がなく、電話がありました『怠くて具合悪いので、これから行きますから診ていただけますか』と。 遠方のため、到着は昼過ぎになると言うので待っていると、最寄り駅の『南林間に着きました。これから伺います』と電話が入りました。駅から当院までは4~5分ですが、20分待っても到着しません。倒れでもしたらと、車で見に行くと駅前ロータリーを出たところを靴のサイズの半分の歩幅でゆっくり歩いて1*いました。20分経って駅から普通の人なら1分の距離でした。車に乗ってもらい院へ戻り治療しました。
脈は細く弱く不規則で、遅脈のように触れるのはたぶん心房細動で血液が心臓から送り出されてないため、脈拍動の間隔が開いているからでしょう。 舌はやや淡く体格に比して小さい。 精血を補い心気を補う治療をすると脈拍は触れやすくなってきました。薄墨のような暗い顔色が明るく変わると患者は『ああ、楽になりました』と言います。
治療を終え別人のように元気に帰って行ったのですが、午後6時半ごろでしたか、患者さんご家族(娘さん)から電話があり『母がまだ帰って来ない』と言います。何処かで倒れたのではと心配しましたが、後日、この患者さんがニコニコしながら言うには、『この前こちらで治療を受けた後、久しぶりに体調良くルンルン気分デパートをウインドウショッピングして帰るのが遅くなった』とのことでした。
かかり付け循環器科での心電図検査では、主治医から『如何した!?心房細動がなくなってる!』と言われたと言います。 鍼治療受けましたと言うと『体に合ってるようだね。続けるといい・・・』と言われたと言うことでした。
*小刻み歩行
 1*この歩行を小刻み歩行といいます。血圧低下で脳虚血により起こる症状です。脳梗塞とは違い、片側ではなく両側性に下肢が動かし難くなり歩幅が狭くなります。
片側性に詰まる脳梗塞とは違い、心臓から送り出される血液量が急激に減少(血圧低下)し、立位で歩行するとき最も高い位置になる=低血圧では血液が届き難くなる大脳の前頭葉運動野の中心部下肢領域が虚血状態となったため起きた症状です(下図参照)。鍼治療によって心拍動が正常となり脳の血流が回復したということです。全身性の怠さも心臓からの血流量が少なく充分な酸素供給を受けられないからでした。

小刻み歩行・・・類似例
『歩行時に足がパタパタする』と娘さんに付き添われ80代男性が受診して来ました。

歩行時に「足がパタパタする」のは爪先を上へ挙げる(背屈)筋肉の前脛骨筋の麻痺(あるいは筋力低下)が原因ですが・・・。

患者の主訴は「歩行が小刻みで足がパタパタする」でした。
歩幅が極端に狭く、立位にてふらつくことがあると言います。

脳神経外科の診察を受けましたが、MRIでは『年齢相応の小さな脳梗塞は多数あるが、小刻み歩行を起こすような異常はみられない』とのことで、患者は糖尿病があるため『糖尿病のためでは・・・』と言われ、糖尿病の主治医からは『血糖値は適切に管理されていて問題ない』と言われ、どちらからも処方や治療が受けられなかったと言います。

さて、「小刻み歩行」ないし「歩幅が狭くなる」、「ふらつく」原因は・・・・?

歩幅は狭いものの、一歩目が出難いと言う「すくみ足」や「手のふるえ」「筋のこわばり」などはありませんのてパーキンソン病は除外できます。

膝蓋腱反射(PTR)左右とも陰性・アキレス腱反射(ATR)左右とも陰性です。小刻み歩行、ふらつき以外に下肢に痛みやしびれ、触覚の異常はありません。筋力低下は軽度で、つかまればつま先立ちができ、カカトに重心をかけてつま先を上げることもできるようです。

下肢筋肉の硬結・圧痛は、左大腿筋膜張筋に硬結・圧痛が強い以外はありませんでした。

筋力低下の多くは弱った筋肉が歩行ことで負荷を強く受け疲労しますから、筋肉が硬くなり圧迫すると凝ったところを押される痛みがあるのが普通です。

また、経験的には、糖尿病性の抹消神経障害では、抹消の血行障害が問題ですから、足の冷えや足趾や爪の血色が蒼白、もしくはチアノーゼの暗紫色になるかと思いますが、この患者さんでは、足は温かく血色も良好です。

また、糖尿病では、麻痺や両側性の小刻み歩行になるよりも、片側に強く出るしびれや痛みの神経痛が起こり、その後に麻痺が出るように思えます。

過去に経験した糖尿病の患者の歩行障害では『朝起きたら片脚が動かせない』と片脚を引きずって来院された糖尿病の患者(60代男性)は、以前から坐骨神経痛で時どき来院されていた方でしたが、鍼治療を終えると普通に歩いて帰りました。

両側性下肢に麻痺、不全麻痺が起こることが「小刻み歩行」ですから・・・

過去の「小刻み歩行」の経験からは、心房細動による脳虚血で最寄り駅から当院まで5分ほどのところを「今、駅に着きました」と電話が着て20分経っても来院されないため見に行くと、まだ、駅から1分ほどのところを歩いていた患者の例がありますが、鍼治療後は本人いわく「治療後はルンルン」でウインドーショッピングして帰り遅れ家族から「まだ帰らないが・・・」と電話が着たことがありました。翌日の循環器主治医の診察で「心房細動がなくなってる!」と言われたと言います。(70代女性)

心不全に伴う脳(前頭葉運動野の下肢運動をつかさどる神経細胞がある「左右の脳が合わさる中央部の大脳縦裂」部)の虚血(図)

さて、鍼灸治療は鍼灸医学で考え治療します。

この患者(80代男性)では、脈有力(六部定位脈診比較では右関上有力、左尺中浮位有力・沈位虚)舌淡紅やや暗紫、舌表面亀甲状ないしやや島状の凹凸、苔少、津液ややぬるっとして滑、微黄。項部凝り左に強く右軽度。足部に浮腫(軽度の指圧痕)。

舌は心臓の「心」と心の臓する「神」を診ます。島状の亀甲凹凸はどう理解するか?舌は若干委縮、縮んでいる・・・これは舌へ血流の不足、局所的陰虚(陰分血の不足)と診ます。脈自体は強く大きく触れていることから全体としての陰虚証はありません。

ぬるっとした津液(滑)で黄色味がかっているのは、「濁飲」と若干の「化熱」です。

治療は・・・・・・

脈有力で、「濁飲化熱」ですから、曲池、足三里に瀉加透天涼。に陰陵泉瀉を加えます。脳血流ですから、脳は髄海、照海を瀉し三陰交瀉を加えます。

頚の硬結・圧痛、特に項部の凝り(項部強直の程度の弱いもの?)を除きます。崑崙や申脈など足の太陽膀胱経を瀉します。これにより、脳と関係する腎・腎経の気の流れは促進されます。項部を触診し左右の硬さ凝りの状態を確認し軽減し難い場合は、同側の手太陽の後谿と先の足太陽の崑崙または申脈と双手瀉法します。下肢の硬結・圧痛で唯一張りのあった左大腿筋膜張筋の左少陽の気の流れの改善に左足少陽臨泣などと同側手少陽外関を双手瀉法します。

項部の凝りの軽減程度に合わせ、第2、3、4、頚神経後枝の圧痛を関節突起部で確認し圧痛の強いものは刺鍼して興奮を取り除きます。頚の緊張が和らぎ圧診すると「気持ち良い」と応えるようになります。

脈の実脈が和緩のいわゆる「胃の気の脈」に変わったことと、舌の色や形態、苔、津液の状態が改善したことを確認して治療を終えます。下肢筋力低下に対し足三里に灸を加えて置きます。

立つと患者は第一声に『足が軽い』と言い。歩き出すと『ああッ!普通に歩ける!』と言います。

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