呼吸しづらい 前胸部違和感 肋間神経痛 胸椎側刺鍼法 呼吸筋 斜角筋 頚椎側刺鍼法
患者(30代男性)は、約1ヶ月ほど前から『左前胸部が重く、呼吸をすると引っかかるような感じがして、息がしづらい』と言います。
発熱や咳はなく、仕事などで動いているときは全く気にならないが、静かにじっとしているとき(安静時)に気になると言います。
また、最近、仕事(屋外作業)の現場が遠方となり、車での移動時間が長くなったと言います。
呼吸すると不快感があり重く、引っかかる感じがする。その範囲を本人に手で示させると、胸骨の左側の第2肋間から第4肋間の高さ付近から、側胸部第5・6肋間付近へ斜めに擦り下ろすような範囲となります(参照:図−1)。
胸部の痛みや知覚異常(不快感)ですから、肋間神経の圧痛を調べます。
(1)胸骨側点:胸骨両脇で肋間の圧痛を左右比較して診て 行きます。(図参照)
(2)側 胸 点 :第12肋骨端、第11肋骨端から上へ順次 圧痛を左右比較して診て行きます。
(3)最長筋の硬結圧痛:脊柱起立筋の最長筋の硬結圧痛を診ておきます。肋間神経は胸神経前枝ですが、神経痛などで前枝の興奮性が高まっている場合、後枝でも神経の興奮性が亢進し支配筋に硬結圧痛が現れていることが普通です。
(4)胸椎横突起下点(私的仮称):先に(2)で診た側胸点の圧痛を認めた肋間を背側へ圧擦診して行きます。肋骨に着く腰腸肋筋・胸腸肋筋の下に肋骨と肋間を触知したその内側(後正中線側)で、筋(最長筋)に隠れ触れて肋骨が触れなくなります。この点が最長筋が起始する胸椎横突起に当たり、肋間の内方向延長線と最長筋の中心線との交点を深く押し込むと強い圧痛があります。圧痛から見た肋間神経(痛)の高さは、第2から第6肋間神経のようです。
肋間神経痛では、大きく息を吸い込み胸郭が拡張すると肋間神経が伸展され痛みが誘発されますが、この患者さんではありませんでした。完全な肋間神経痛とは言い切れない症状です。
また、安静時の呼吸(吸気)は主に斜角筋によって行われますが、左斜角筋には強い硬結圧痛があり、肩上部僧帽筋と肩甲挙筋にも硬結圧痛を認めます。斜角筋の凝りは車での移動時間が長くなり頭部が揺られるのを支えることからの疲労でしょうか? 頚椎側の圧診で左第2~第6頚椎関節突起部にも圧痛(関節突起に着く多裂筋などの圧痛)があります。
推測ですが、胸椎側でも同様なのではないでしょうか。
【 治 療 】
第1処方)として、脈診:緩弱
舌診:淡紅やや暗く、やや胖
舌苔:白く薄膩 から、曲池、足三里に瀉法、陰陵泉に平補平瀉を先ず行い。
脈状と舌の状態の改善(特に舌苔の薄膩は「重い」と言う訴えから考えられる「湿(鍼灸医学での病症の原因となる邪気)」との関連があるため、サラッとした薄白苔に改善することが望まれる)すると、項部頭半棘筋と肩上部僧帽筋の硬結圧痛は軽減しました。
第2処方)として、左胸部の気の循環を促進する目的で、左手の太陰の尺沢から孔最にかけての硬結圧痛の除去のため同側列缺瀉法、同じく左手の厥陰曲沢から前にかけての硬結圧痛の除去ために同側内関瀉法とし、それぞれ硬結圧痛の緩解を確認します。
第3処方)として、頚椎側刺鍼法にて斜角筋、肩甲挙筋、上腕二頭筋等の硬結圧痛の改善を行います。
第4処方)として、胸椎側刺鍼法にて左胸背部の神経筋の過緊張を除きます。
・・・・・・・・・以上の鍼治療の結果・・・・・・・・
患者は来院したときの症状は、ほぼ完全に無くなったと言います。