鍼治療では、患者の訴えを聞き、問診、脈診・舌診・腹診・切経(経脈に沿っての触診)などの鍼灸医学独特の診察術を用いて施術を行います。
刺鍼施術(ツボ=経脈経穴を選定し治療目的に合わせた手技操作を刺鍼に加える)により舌診で見た舌の状態が変化・改善したり、腹診や切経での張りや硬結・圧痛などが軽減~消失したりする改善変化を確認します。
その中でも特に大切なのが脈状が調うことです。
脈状とは、漢方や鍼灸医学独特の診察法です。手首の橈骨動脈の脈拍動を触知したときの施術者の指に触れる感覚ですが…。この感触を「 強い/弱い、速い/遅い、太い/細い、堅い/柔らかい・・・など」で陰陽虚実寒熱、細すぎるもの(陰虚)は大きくゆったりと拍動するように変化改善させ、強過ぎるもの(実)は弱め、速すぎる(脈拍数が多い)もの(熱)は脈拍数が減り正常範囲に近づけ(清熱:脈拍数が多い=数脈は熱の存在ですから熱を除くと脈拍数が落ち着きます)、弱過ぎるもの(虚)は拍動を強く(補)します。
脈状を調えるとは、心拍動や心臓から送り出される血流をコントロールすることになります。
よく、鍼治療で『自律神経失調はなおりますか?』と訊かれることがありますが…。何らかの病気や症状が治らないのは、患部にの血行不良が関係しています。血流をコントロールしているのは、他ならない自律神経す。そして鍼治療は、自律神経のもっとも重要な働きの心拍動と血管の拡張収縮に影響し血行動態を変化改善して色々な病気や症状を治癒へ向かわせているのです。
小刻み歩行/心房細動の患者愛川さん:心臓循環器科主治医が「あれ!心房細動が無くなってる?」とびっくり
❏不整脈(心房細動)は治らなかったが日常生活動作「歩行」が改善した例- 死脈の患者藤沢さん
- 美容鍼灸と言えども脈状を整えることがたいせつ…
「美容鍼灸で治らなかった眼の下の青いクマを治して欲しい」と・・・34歳女性
1.小刻み歩行/心房細動の患者:愛川さん(当時60才代女性愛川町在住)の例
この患者さんは私が病院勤務時から治療して』いた方で、当時から糖尿病と不整脈があり、頚肩部や腰背部の疼痛症状や身体の だるさ を訴え受診され、鍼治療後は痛みも凝りも だるさ も無くなり身体が軽く快適になると言っていました。
ある朝『身体が だるく て動けないけど・・・これから行きますから診てもらえますか?』と電話があり『お昼ごろには着きます』と言うので予約を取って置くと…。昼過ぎても来ません。午後1時過ぎて『今、南林間(当院最寄駅)に着きました。』と連絡がありましたが、駅からどんなにゆっくり歩いても5~6分なのに20分経っても来ませ。道で倒れたのではと・・・車で見に行くと、駅前ロータリを出た辺りを歩いていました。それも、靴のサイズにも満たない歩幅で・・・。
小刻み歩行 です。急激に血圧が低下し脳の高い部分へ新鮮な血液酸素が供給されないと、この部分の神経機能が低下します。
最も頭の高い部分を前大脳動脈が栄養していますが、この部分で脳虚血状態となります〈下図参照〉。

この部分は前頭葉運動野の下肢の運動を支配する神経細胞が分布する領域です〈下図参照〉。 虚血の影響として、下肢が動かし難くなります。そのため 小刻み歩行 が起こります。片側性に起こる脳梗塞とは違い、両側性に下肢が重だるく動かし難くなります。

*上図の説明:心房細動などで血圧急激に低下すると脳血流が低下します。そして高いところほど影響は大きくなります。それは…血圧は血管の中を流れる液体・血液の圧力ですから頭(脳)の高いところへ上げるにはある程度の圧力が必要です。心不全・心房細動などで心臓から上手く血液が拍出されない(血圧低下)ことと頭の高いところほど血液が行かず酸素供給が減ることになります。そして、そこが運動野「脚」の部分になるため、脚を動かす命令が発信できなくなり、脚が動かせない動かし難い「小刻み歩行」となります。脳梗塞とは違い両側性に起こります。
鍼治療により脈状が調い、不整脈「心房細動」が消え、血液が心臓から拍出されて、脳が充分に栄養されれば治ります。
治療を終えると、愛川さん『ああ、軽くなりました』と顔色も良く『明日、心臓循環器科の診察予約日なの・・・これで行けるわ…』と帰って行きました。
ところが、夜7時ごろ、愛川さんの娘さんから『母が帰って来ない』と電話が!!!・・・これには心配しました。
・・・が、後日、来院された愛川さんが言うには『鍼治療の後は、身体が軽くてルンルンになるの…。先日も鍼のあと体調が良くなったからデパート寄ってウインドウショッピングしてたの…』と言います。
そして、鍼治療の翌日受診した心臓循環器科の診察では主治医が「あれ!心房細動が無くなってる?」とビックリしていたと言い。鍼治療の話しをしたところ「身体に合ってるみたいだから続けるといい」と言われたとのことでした。
その後、この患者さんは、80歳代で肝臓がんで亡くなりましたが、心房細動の再発はありませんでした。
また、他の患者さん(60歳代男性)でアブレッション手術を3回受けたが心房細動が治らず『歩くのもたいへんで10メートル毎に休んで歩くようだ』と当院を受診してきた方では、脈診での不整脈の脈が飛んで触れない状態が少し拍動を触れる回数が増えたか?程度の変化しかありませんでした…。…が、『鍼治療の後、帰り道は休まず歩ける距離が伸びる』と言って鍼治療をつづけ、自宅から当院まで徒歩30分を休まず歩けるまでに心肺機能を含め体力を回復しました。
この患者さん現役時代住んでいたヨーロッパに家族ともう一度旅行することが夢で『これで夢が叶う』とよろこんでいました。
鍼治療をつづけた…と言いましたが、つづけたと言っても6~7回です。
1回の鍼治療毎に…休まずに歩ける距離が伸びて行くことがご本人の励みになっていたようです。
当時の当院の治療費は…1回4000円でしたので、7回で28,000円。
治療期間3週間ほど…3万円に満たない額で、10メートル毎に休んで歩いていた人が、30分休まず歩けるようになる…現在の病院リハビリテーション医学の観点から見てもスゴイことだと思いますが・・・。
2.「死脈」の話しをしましょう。
亡くなる直前の脈状は、浮いて力なく不規則で触れるか触れないか…という感触です。これを「死脈」と呼びます。
以前からときどき…と言っても体調の悪いとき数年に1~2度…来院される患者:藤沢さん(仮称80歳女性藤沢在住)が、『胸が苦しく怠くて歩くのもたいへん・・・』と受診して来ました。
脈状は「死脈」でした。経験上、この症状は心房細動など心不全にともなう血圧低下で歩行時にもっとも高い位置にある前頭葉運動野の下肢への神経細胞が特に血流不足=酸欠となるため『脚が怠くて動かない』と言う訴えになります。心拍動が正常となり血圧が戻ればケロッと治ってしまいます。
もちろん、舌診や腹診、切経などの所見から心肺機能の改善策を処方するのですが・・・説明が複雑になりますのでここでは省きます。
この患者(藤沢さん)は、当院から7~8分のところに妹さんが住んでいて、その妹さんの紹介で来院された方でが、妹さんの所へ車を置いて…、やっとの思いで歩いて来たのでした。
身体が重だるく息苦しい・・・脈は弱く不規則で触れ難い、顔色は血の気が薄く・・・心肺機能が低下している状態でしたが、脈状が改善すると、症状はケロッと治り何事も無かったかのように元気になってしまうから不思議です。
心房細動が疑われるため・・・「明日、心臓循環器科を受診」するよう言って帰しました。本人は『治ったのに・・・そんな必要ありますか?』程度の受け答えでしたので、翌日、心配だったので電話すると『先生に治療してもらって治っちゃったから必要ないでしょう。それに心臓循環器科なんて何処にあるか知らないもの・・・。検査しなくても死ぬことは無いでしょう』と言う「死ぬ病気の可能性があるから言ってるんです」と伝え、藤沢さん宅の最寄の循環器医院をネット検索し知らせ「問い合わせて受診するように」説得しました。
藤沢さんは、循環器科医院を受診しましたが、心電図には何も異常は見られず病院にて詳しく検査することになりました。その翌週、検査を前にして自宅で倒れ病院へ緊急搬送され・・・その3週間後には帰らぬ人となってしまいました。
死因は、「原発不明がん転移」でした。
3.美容鍼灸
鍼灸の美容効果は広く認められているようです。街角には「美容鍼」の看板がどこへ行っても見受けられます。
美容鍼・・・と言うと、顔に何十本も針を刺すイメージですが、、、実際のところこれを業とする方々の理論を知りませんので言及しませんが・・・。
本来、顔の皮膚が健康であれば美しいはずのものです。顔面部の皮膚の末梢血流を改善して新陳代謝を活発にする・・・には、顔に針を刺せば良いのでしょうか?
鍼灸治療では、最も重要な理論として「臓腑経絡学説」と言うものがあります。顔面部は手足の陽明経脈(経絡)が循環しています。手の陽明経脈は「大腸経」で足の陽明経脈は「胃経」です。顔の美容と言っても、手足の陽明経脈を整え( = 胃と大腸を調える)とともに胃と大腸の表裏関係にある脾臓と肺おも調えることが鍼治療と重要なことになります。脾臓の気の作用には、皮膚の新陳代謝=皮膚の再生に必要な栄養素を消化吸収する働きと水分や栄養を輸送する働きがあり、これが弱ると浮腫 ムクミ が生じたり肌の張りやつやが無くなったりします。
また、肺は気をつかさどり身体の表面、皮膚と毛「皮毛」を管理しています。
たとえば、顔色が赤ら顔の人は「胃熱」と言って胃大腸に熱があり食欲旺盛で過食肥満になりやすく便秘すると便が硬くなります。唇なども乾いて荒れやすくなります。脈状では有力でやや数(脈が速く脈拍数が多いこと)左右の脈を比較して診る「六分定位脈診 ロクブジョウイミャクシン」と言う脈診法では右側の胃を診るところの拍動がより強う触れます。この脈状を改善するように鍼治療することが美容にも直結します。
また、脈状がゆるく軟らかく、舌診で舌の形がむくんで大きく舌の縁に歯に当たった痕(歯痕 シコン )があるような場合では、胃と表裏の関係にある脾臓の気が弱って水分や湿気を上手く処理できなくなっています。身体が怠く、顎のラインや眼瞼 マブタ がむくんでスッキリしません。
この場合、滞った水湿を除去し脾臓の気を補います。脈状が調うと舌のむくみも顔のむくみも軽減して行きます。翌朝にには顎のラインもスッキリになります。このような身体の調整は、顔面部に針を刺しただけでは不可能です。
当院では、「美容鍼灸」と宣伝はしていませんが、ある夏の暑い日『眼の下の青いクマを消して欲しい』と34歳の女性が来院しました。友達の結婚式へ行くのに気にされてのことでしたが、『美容鍼灸にはずっと通った』が『全く変わらなかった』と言うことでした。
脈状は細弱虚です。基本的に顔色が青白い人は体力が無く低血圧です。脈拍動に適度の力強さが出るように気を補い、脈が細い=陰分(精血)も不足していますからこれも補い、食欲が出るように脾胃を調えます。とくに、眼瞼 マブタ は脾胃と関連します。手足の陽明で顔面部の血流改善を図りを・・・2回(1回目は結婚式の1週前、2回目は式の前日)施術しました。
さて、結果どうでしたか?
後日、この女性のご主人が受診されたので「奥さんどうでしたか?」と訊ねてみました。
すると『よろこんでました』とのことでした。
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